「これがゴーレムの核になっていたものか」
勝利の余韻が収まったところで、ゴドウェンさんが先ほどゴーレムが消滅した場所に残されたガラス玉を拾い上げた。
それは罅割れており、見た目にも価値のある者には見えなかった。「ドロップ品・・・じゃなさそうね。あの攻撃で壊れた可能性もないとは言い切れないけど」
「仕方ないでしょう。あれ以外の方法で倒そうとすればどれだけの時間が掛かったか、というより倒せたかどうかすら怪しい相手でした」 「そうね。とりあえず持っていきましょうか」ガラス玉についてそう結論付けたゴドウェンとミアは、その視線をこちらに移し、近づいてきた。
「アキツグさん、お見事でした。あの弱点看破がなければこんなに早く討伐することは不可能だったでしょう」
「ほんと良く気づいたわね。流石は私が見込んだ冒険者ね!」 「あ、ありがとうございます。でも、本当に偶々だったので・・・」二人の言葉に周囲の人達まで賛同してくれていたが、俺としては気になったから試してみた程度のことだったので、そこまで称賛されても素直には受け入れられなかった。
『直感だって大事な能力の一つよ。あなたはそれだけのことをしたんだから、たとえ運が良かったのだとしても、今は喜んでいいんじゃない?』
そんな俺の心情を読み取ったのかロシェがそんな風に言ってくれた。
(・・・そうか、トラップやミアの件で俺はまだ力不足だと思っていたが、最後では役に立てたんだ。運もあったと思うけど、少しは成長できているのかもな)
「ありがとうロシェ。そうだな、運も実力のうちっていうし今は素直に喜んでいいよな」
『えぇ、そうしなさい』 「そんなに謙遜する必要はないと思いますよ?アキツグさんは私の時も助けてくれましたし、目端が利く優秀な人だと思います」 「そんな・・・いや、うん。ありがとう」聞かれていたとは思わなかった会話に、さらっと入ってきたカサネさんからのそんな言葉に思わずまた否定しそうになったが、思い直して素直に礼を言った。
「さて、それではあの大扉の先を見に行くとするか」
ゴドウェ
ほとんど同時にミアがガクッと地面に膝をついた。よく見れば額には大量の汗を浮かべている。「姫様!大丈夫ですか!?」 「だ、大丈夫よ。魔力が体の中でぐちゃぐちゃになったみたいで気持ち悪くなっただけ」 「それは、大丈夫と言えるのか?」 「・・・分かるのよ。自分の中の魔力の質が明らかに変わったってことが。それに少しずつ落ち着いてきているから、少し休めば良くなると思う」よく分からないが本人がそう言うのなら多分そうなのだろう。 ということはさっき水晶の中で増えた光が追加された属性なのだろうか?「断定はできませんが、恐らく儀式は成功したということですな。では、今回の作戦に参加したものはこれの使用許可を頂いている。望むものは順に触れるが良い。 まずはカサネさんからだな。どうぞ」ミアの様子から王族の務めが完了したと判断したゴドウェンは、そう言ってカサネさんに場所を譲った。「あ、ありがとうございます」カサネは緊張した様子で台座の前に行き、水晶に触れる寸前でその手を止めた。 緊張するのは当然だろう。カサネさんがあの魔法を扱えるようになるためには残り二つの属性の適性を得なければならないのだ。 だが、一つ息を吐くと意を決してその水晶に触れた。するとミアの時と同じように四つの光が現れて回転を始め、そこに二色の光が生まれ合流すると徐々に薄れて消えていった。 先にミアの様子を見ていたからなのか、カサネさんは膝をつきはしなかったが、やはりその額には大量の汗を浮かべていた。「カサネさん、大丈夫か?」 「うっ、はい。覚悟していたつもりですけど、本当にこれはきついですね。でも、何かが変わった感覚はあります。上手くいったみたいです」 「あぁ、ちゃんと二色の光が増えていた。やったなカサネさん」 「はい。ありがとうございます」まだ辛そうではあったが、それでもカサネさんは笑顔で答えた。 周囲では「六属性?嘘だろ?」っとざわついたりしていたが。 その後、魔導士数人も水晶に触れたが一人が属性を一つ得ただけで他の人には何の反応も起きなかった。最初の二人を見てい
「これがゴーレムの核になっていたものか」勝利の余韻が収まったところで、ゴドウェンさんが先ほどゴーレムが消滅した場所に残されたガラス玉を拾い上げた。 それは罅割れており、見た目にも価値のある者には見えなかった。「ドロップ品・・・じゃなさそうね。あの攻撃で壊れた可能性もないとは言い切れないけど」 「仕方ないでしょう。あれ以外の方法で倒そうとすればどれだけの時間が掛かったか、というより倒せたかどうかすら怪しい相手でした」 「そうね。とりあえず持っていきましょうか」ガラス玉についてそう結論付けたゴドウェンとミアは、その視線をこちらに移し、近づいてきた。「アキツグさん、お見事でした。あの弱点看破がなければこんなに早く討伐することは不可能だったでしょう」 「ほんと良く気づいたわね。流石は私が見込んだ冒険者ね!」 「あ、ありがとうございます。でも、本当に偶々だったので・・・」二人の言葉に周囲の人達まで賛同してくれていたが、俺としては気になったから試してみた程度のことだったので、そこまで称賛されても素直には受け入れられなかった。『直感だって大事な能力の一つよ。あなたはそれだけのことをしたんだから、たとえ運が良かったのだとしても、今は喜んでいいんじゃない?』そんな俺の心情を読み取ったのかロシェがそんな風に言ってくれた。(・・・そうか、トラップやミアの件で俺はまだ力不足だと思っていたが、最後では役に立てたんだ。運もあったと思うけど、少しは成長できているのかもな)「ありがとうロシェ。そうだな、運も実力のうちっていうし今は素直に喜んでいいよな」 『えぇ、そうしなさい』 「そんなに謙遜する必要はないと思いますよ?アキツグさんは私の時も助けてくれましたし、目端が利く優秀な人だと思います」 「そんな・・・いや、うん。ありがとう」聞かれていたとは思わなかった会話に、さらっと入ってきたカサネさんからのそんな言葉に思わずまた否定しそうになったが、思い直して素直に礼を言った。「さて、それではあの大扉の先を見に行くとするか」ゴドウェ
(厄介だな。あとどれだけ攻撃すれば倒せるのかも見当がつかないし、長期戦になるとこっちが不利だ。何か弱点とかないんだろうか?)そう思って観察してみるが、パッと見にはそれらしきものは見当たらない。 まぁ、簡単に分かるようなものがあれば誰かが気付いているだろうから当然と言えば当然なのだが。 そんな俺の様子に気づいたのかロシェが近づいてきた。『手が止まってるみたいだけど、どうかしたのアキツグ?』 「いや、何か全然ダメージが通ってる気がしないからどこかに弱点でもないかと思ってさ」 『あぁ、なるほど。確かに結構な攻撃を受けてるはずなのに見た目的にはほとんど変わりないものね。魔法生物だから、見た目そのままかは分からないけれど』 「実は効いてるかもしれないってことか?」 『可能性としてはね。でもあのゴーレムは動きが鈍くなったりもしてないし、期待は薄いかしら。ほら、こっちが手を止めちゃってるからまた向こうに倒れこみを仕掛けてるわよ?』ロシェの言葉に振り向くとまさにゴーレムが向こう側に倒れこんだところだった。 だが、その光景に僅かな違和感があった。「なぁ、今ゴーレムの背中が膨らんでなかったか?」 『え?よく見てなかったけど、気のせいじゃないの?』言われてロシェが目を向けた時には特におかしなところは見当たらなかった。 しかし、気になった俺は再びゴーレムが倒れこみの動作に入ったタイミングで、先ほど気になったあたりに狙いを付けてライトニングの魔弾を撃ち放った。 「ダァン!」とゴーレムが地面にぶつかった音が響くのとほぼ同時に、アキツグの放った魔弾がゴーレムの背中の一部に着弾した。 その瞬間「ギギギギィ!」とゴーレムから異音が鳴り響いた。「なんだ!?」見るとゴーレムが衝撃を受けた様にその鉄の表面を震わせていた。だがすぐにそれも収まり通常の状態に戻った。 良くは分からないが、何らかの効果はあったらしい。一応起きたことを大声で全員に伝えた。「皆さん!倒れこんだ直後にゴーレムの背中に膨らみができていました。今のはそこにライトニングを当てた結果です。もし
人数が増えたこともあり前回の二十二階層まではスムーズに降りてこれた。 幸いダンジョンの構造変化も起きていない。こんなダンジョンで一からやり直しは勘弁してほしいので本当に今回で終わらせたいところだ。 罠については、前回の反省から複数個所に罠が設置されていても別々に作業するのは無しとなった。多少時間は掛かるが安全第一だ。 そうして交代や休憩を挟みながら探索を進め、四日目に入ったところでとうとう三十階への階段に辿り着いた。「よし、最終確認だ。前衛は守りに専念、物理攻撃はほとんど通らないだろうから無理に攻撃する必要はない。後衛は狙われないようにしながら魔法で攻撃してくれ。 ゴーレムの一撃は強力だ、もし狙われた場合は回避を優先しろ。肝心なのはここのゴーレムは通常とは異なる可能性が高いということだ。最初は対ゴーレムの基本戦術で対処するが、状況に応じて臨機応変に対処するように」ゴドウェンさんの話を皆が真剣に聞いていた。 その後もいくつか細かな点の質疑応答が行われ、確認を終えたところで階層ボスとの戦闘を開始することになった。「いくぞ!」ゴドウェンさんが三十階層への大扉を開ける。 そこは広々とした円形のフィールドになっており、その中心に鈍く銀色に輝く鉄の塊が鎮座していた。俺達が展開しながら近づいて行くと、敵を認識したのか人の数倍はあるだろうその鉄の塊が動き出し巨人のような姿を露わにした。「あれは・・・アイアンゴーレムか?」 「そうみたいね。通常と同じであれば弱点は火や雷のはずだけど・・・」確かに見た目はまさに鉄でできたゴーレムという感じだった。相手はこちらの出方を伺っているのか動く様子はない。そうしている間に距離が近づいて行き、前衛の兵士達がシールドバッシュを仕掛け注意を引いたのが開戦の合図となった。 ゴーレムが目の前の相手を押し潰そうと腕を振り上げ、そのまま今度は振り下ろす。 兵士たちが急いで退避した場所にその巨大な拳が叩きつけられ「ガァンッ!」と巨大な音がした。その衝撃で地面が揺れる。ゴーレム同様に頑丈なのか叩きつけられた先の地面には凹みもできていない。「フ
俺達が階段エリアで待機を続けてから数時間後、ロシェの気配が段々と近づいているのを感じた。 どうやら向こうの方から合流しに来てくれたらしい。正直戦力的に不安だったので有り難かった。一応怪我などしていた時の為に回復薬などを準備して、ロシェが来るのを待っていると、予想に反して複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。『アキツグ、大丈夫・・そうね。安心したわ』 「アキツグさん、良かった。無事だったんですね」 「あぁ、テントで休んでいるけどミアも無事だよ」 「おぉ!姫様も御一緒だったのか。守って頂いたこと感謝する」やってきたのはロシェだけではなく、カサネさんやゴドウェンさん達も一緒だった。 聞いたところどうやら俺たち二人以外は同じところに飛ばされたらしい。 だが敵地のど真ん中に飛ばされてしまい、殲滅するまでにかなりの時間が掛かってしまった。幸いにも大きな被害は出なかったため、少し休憩を取った後で俺達を探しに来てくれたという話だった。「あっ!皆来てくれたのね!」話し声で起きたらしい。ミアがテントから出てきた。「姫様、ご無事で何よりです。すぐに合流できず申し訳ございません」 「あんな罠に掛かったんだもの。仕方ないわよ」 「ミアさんも無事で良かったです」 『おはよう。アキツグに変なことされたりしなかった?』 「ちょ!ロシェ、変なこと言うなよ。するわけないだろ?」 「あははっ!大丈夫よ。しっかり守って貰ったもの。二人もありがとうね」それぞれがミアに声を掛けている。兵士さん達もミアの無事にほっとしている様だ。俺はロシェの揶揄いに反応したせいで変な目で見られてしまったが。。 全員が合流できたところで、まずは王城まで戻ることになった。 戻る途中で気づいたことだが、ロシェ達は二十一階層、俺達は二十二階層にそれぞれ飛ばされていたらしい。酷い罠だったが、転送先が近かったのがせめてもの救いだった。 二十二階層であれだけ苦労したのだ。さらに下の階だった場合、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。 そんなことを考えていた俺の表情に気づいたのかカサネさんが声を
幸いにもこの階の罠は探知可能だったため、さきほどの様な二重トラップに掛からない限りは罠の危険は回避できそうだった。 魔物についてもダンジョンの魔物が特殊なのかは分からないが、相手に先に気づかれるようなことはほとんどなく、何とか敵の少ない道を選んで進んでいった。 しかし、二人しかいない状況では最低限の敵とは戦わざるを得ない。 ミアは今日も既に何体かの敵を倒していた状態でこのような事態に陥っていたため、精神的な疲労は結構なものになっていた。 そうして何度目かの戦闘時、意図せず集中を乱したミアの魔法は標的を外してしまった。「あっ!」躱す必要の無くなった魔物はそのままエルミアに襲い掛かってきた。「きゃっ」 「ミア!」直前でそれに気づくことができた俺はミアに体当たりする形でその攻撃からミアを庇った。「ぐっ!」魔物の振り下ろした剣が俺の左肩から胸元辺りを切り裂く。 痛みに耐えながらもなんとかその相手に魔銃を突き付け、至近距離からの魔弾を叩き込んだ。「アキツグ!大丈夫!?っ!・・・エアスラッシュ!」ミアは俺の心配をしつつも、残りの一体に対して今度こそ魔法を命中させて打ち倒した。だがその時、不運にもその先の通路から別の魔物達がやってきて俺達に気づいてしまった。しかも数が多い。出てきたのは四体だった。 それが見えた時点で俺は仕方なく切り札を切った。ちりんちりんと場にそぐわない軽やかな鈴の音が響く。その音の魔力からゴブリンロードの影が現れた。「あいつらをここから先に通すな。ミア、逃げよう」 「え?う、うん」事態の急激な変化に戸惑いを見せるミアを連れて、元来た方向へ足早に撤退した。逃げる間にもバッグから取り出した回復薬を傷口に振りかけ残りを飲み干す。 しばらく道を戻ったところでようやく一息ついた。恐らくもうそろそろ影が消える頃だろう。影を見失ったあいつらがこちら追いかけるようなことをしなければいいのだが・・・「アキツグ、傷は大丈夫?」足を止めたところでミアが心配そうに声を掛けてきた。「あぁ